「歌のある生活」24「音楽」の歌その11

ポピュラー音楽についての二回目です。ポピュラー音楽というのは、クラシック音楽と比べて、音楽そのものを詠うのが難しい。なぜなら、その音楽を知らなくちゃあ読者は共感しようがないからだ。そこで、どうしても社会風俗を主題にして、そのモチーフとして…

「歌のある生活」23「音楽」の歌その10

音楽を題材にした短歌についておしゃべりしていますが、これまではクラシック音楽ばかりを取り上げてきました。けれど、短歌に詠われている音楽は何もクラシックばかりではなく、邦楽や洋楽の流行歌いわゆるポピュラー音楽も当然ながらありましょう。そこで…

カバレフスキーその2

カバレフスキーでわりと有名な曲に、歌劇「コラ・ブルニョン」序曲がある。 これは、ディスクも豊富。5分程度の小品ですぐ聴ける。 バースタインの「キャンディード」序曲のソビエト版みたいといえば、ピッタリな感じ。速いテンポで曲想がめまぐるしく入れ…

カバレフスキーのこと

春である。 春にあう音楽はなんだろう。 人によっていろいろだろうが、私の場合は、カバレフスキーだ。彼の音楽は、雪解けの春先にぴったり合うと思うのだが、今のところ賛同する人に出会ったことはない。 数年前、春にカバレフスキーを聴く、という内容の短…

リスペクト・ブックス

『月とマザーグース』松川洋子(2012年、本阿弥書店) 今年めでたく卒寿を迎えた松川洋子の第六歌集。人生の先達に相応しい味わい深い作品のなかに、キャリアを感じさせないお茶目な歌がはさまれていて、びっくりします。老いてなお溢れる彼女の瑞々しい…

「歌のある生活」22「音楽」の歌その9

前回の続きです。塚本の歌をもう一首とりあげましょう。 春雪にこごえし鳥らこゑあはす逝ける皇女のためのパヴァーヌ 塚本邦雄『水葬物語』 フランスの作曲家ラヴェルの小品が詠われています。下句の「逝ける皇女のためのパヴァーヌ」です。ただし、邦題は「…

「歌のある生活」21「音楽」の歌その8

前々回、前回と「その音楽を知っていてもいいけれど、知らなくても鑑賞できる作品」を皆さんと鑑賞していますが、今回からは、そのなかから「意味」を楽しむ歌を取り上げます。「意味」を楽しむとはどういうことか。理屈はあとにして、まずは作品を鑑賞する…

「歌のある生活」20「音楽」の歌その7

前回の続きです。「音(おん)を楽しむ歌」の二回目です。音楽を題材にした作品のなかで、「その音楽を知っていてもいいけれど、知らなくても鑑賞できる作品」というのがありますよ、という話でした。 プロコフィエフの音符を咽喉につまらせた感じだらうか三…

「歌のある生活」19「音楽」の歌その6

今回からは、音楽を題材にした歌のなかで、「その音楽を知っていてもいいけれど、知らなくても鑑賞できる歌」と、いう作品群をみていきます。 これらは、二つの種類に分かれます。 「音(おん)を楽しむ歌」と、「意味を楽しむ歌」の二種類です。 と、いって…

「歌のある生活」18「音楽」の歌その5

前回、小池光を悪く言いましたので、今回は、こんな素敵な作品を紹介しましょう。 サミュエル・バーバー「弦楽のためのアダージォ」七分の間(ま)の虹きえるまで 小池光『時のめぐりに』 アメリカの作曲家バーバーの代表作「弦楽のためのアダージォ」の切ない…

歌のある生活17 音楽の歌その4

今回は、音楽を題材にした短歌作品のなかで、私が問題アリと思う歌を取り上げます。 中国の不死の男が街娼を愛する話 夏の楽譜に 「本郷短歌」第四号 服部恵典 一読、何のこっちゃ、という感想の人が大半じゃないでしょうか。 これはバルトークのバレエ音楽…

芥川也寸志の音楽

芥川也寸志は、作家芥川龍之介の三男坊。 といっても也寸志が2歳のときに、龍之介は自殺したから、父親のことは覚えていないだろう。 のちに也寸志は、父親の「蜘蛛の糸」を舞踊組曲として作曲して、それは現在録音されてCDになって聴くことができるけれど…

「歌のある生活」16「音楽」の歌その3

前回は、問いを投げたところで終わりました。「音楽」が鳴る歌は、バッハやモーツァルトでは作りやすいけれども、他の作曲家では難しい。それはなぜでしょう、という問いでした。 さて、なぜでしょう。 まず、単純な理由として、字数の問題があります。バッ…

「歌のある生活」15「音楽」の歌その2

「音楽」を題材にした歌についてのおしゃべりの二回目です。 「音楽」を題材にして作歌する以上、その作品には「音楽」が鳴っているべきである、というのが、私の主張です。 前回は、近藤芳美の作品をあげました。「たちまちに君の姿を霧とざし或る楽章をわ…

「歌のある生活」14ある状況を歌にする

今回は、いきなりクイズからはじめましょう。次にあげる二首は、どちらも同じ「ある状況」を歌にしています。さて、どのような状況を詠んだものでしょうか。 電車ならまだあるだろう特製のベーコンエッグ食べに来ないか 新名リオ 痛みあれ 右手のひらが持つ…

2014.05.30札幌交響楽団定期演奏会記 伊福部昭プログラム

2014.05.30札幌交響楽団定期演奏会記 伊福部昭演奏会。 私がはじめて伊福部を聞いたのは、高校の時だったと思う。 多分「交響譚詩」だったろう。わかりやすい曲想で、1楽章はアレグロでぐいぐい押すから、高校生の時分には楽しめていただろう。 そのうち、…

伊福部昭「ラウダ・コンチェルタータ」

伊福部昭の楽曲で、私は「タプカーラ」も「交響譚詩」も「ヴァイオリンの協奏曲風狂詩曲」も好きだけど、いちばん好きなのは「ラウダ・コンチェルタータ」だ。伊福部版マリンバ協奏曲なのだが、とにかく演奏者のテンションがモロにわかる。マリンバ奏者にと…

伊福部昭「日本狂詩曲」

高関健と札幌交響楽団による伊福部昭「日本狂詩曲」ほかのCDが発売された。発売といっても、2014年10月のことだから、もう1年近く前の話だ。 CDは、こちら。 伊福部昭の芸術10 凛―生誕100周年記念・初期傑作集 この「日本狂詩曲」、まったくもう…

「歌のある生活」13「音楽」の歌その1

音楽をうたった歌に出会うことがあります。 有名なところではこんな歌です。 たちまちに君の姿を霧とざし或る楽章をわれは思ひき 近藤芳美 この歌、一般的に名歌ということになっています。たとえば、永田和宏はその著「現代秀歌」(岩波新書)で、巻頭歌と…

「短歌人」4月号ベスト3

ずり下がるライダーベルト押さへつつ正義のための飛び蹴りをせり 河村奈美江 「正義」の歌である。こうした大きな言葉を歌にするのは、たいへん難しい。正面からうたおうとすると、どうしても気負いすぎて、歌にならずに安っぽいアジテーションになってしま…

「歌のある生活」12子どもが詠んだ歌

先日、学校の先生方の研修会で、短歌についてお喋りをする機会があった。研修会といっても参加者は十人程度の小さいもので、国語科授業の韻文学習の研修というのが会の目的であった。この研修会、実は私の昔の仲間の企画で、そういえば元教員の桑原が、最近…

「歌のある生活」国語教科書のなかの歌⑦

前回まで、教科書のなかの歌を皆さんと見てきました。今回は、その番外編といった感じで、私の教科書の思い出について、おしゃべりしたいと思います。 私が中学生だったとき、教科書でこの作品に出会いました。 みちのくの母のいのちを一目見む一目見むとぞ…

「歌のある生活」国語教科書のなかの歌⑥

さて、国語教科書に載っている短歌の紹介も今回で最後です。とうとう残り三首になりました。近代から現代へ、現役の歌人の作品も登場してきています。さあ、誰のどんな作品を中学生に紹介しましょう。 白き霧ながるる夜の草の園に自転車はほそきつばさ濡れた…

「歌のある生活」9国語教科書のなかの歌⑤

中学校の教科書に載っている短歌作品を紹介しています。 中学生向けだからといって、平易な歌ばかりではありません。近代から現代にうつるにつれて、理解が難しい作品も登場するようになります。大人が鑑賞するにも、かなり歯ごたえがあると思われる作品を読…

「歌のある生活」8国語教科書のなかの歌④

中学校の国語教科書に載っている短歌作品を紹介していますが、いよいよ近代短歌のスーパースター石川啄木の登場です。 不来方のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心 石川啄木 啄木を中学生に紹介するなら、この一首で決まりでしょう。 一読、かっ…

「歌のある生活」7国語教科書のなかの歌③

中学校国語教科書に取り上げられている短歌作品の話題です。 最近の教科書の多くは、はじめに短歌入門として歌人のエッセイがあって、短歌というのはこんな感じの文芸なのですよ、と映画でいえば予告編のようなものを読んでから、本編である短歌の鑑賞にはい…

「歌のある生活」国語教科書のなかの歌②

前回からの続きです。 中学校国語教科書にある馬場あき子のエッセイの話題でした。 馬場は、中学生に紹介する近代短歌の作品として、はじめに正岡子規をとりあげたのでしたが、さて、子規に続く作品として誰を紹介しているでしょう。 二人目も近代短歌の代表…

「歌のある生活」国語教科書のなかの歌①

私には中学2年生の娘がいます。 中学2年生というのは、国語の授業で短歌を習う学年です。娘の国語教科書には、はじめて短歌に触れるであろう中学生にふさわしい(と思われる)作品が載っています。これがいろいろと興味を誘います。 今回から数回にわたっ…

「歌のある生活」インターネットの世界の歌④

インターネットの世界にはブログと呼ばれるサイトがあります。ブログとは、個々人の公開日記みたいなものと思えばいいでしょう。その日にあった出来事や折々の場面で自分が思ったことを書き込んで、ネットを通してあらゆる人に読んでもらうというものです。…

「歌のある生活」インターネットの世界の歌③

皆さんは、ツイッターをご存知でしょうか。これ、ごく簡単に言うと、一四〇字以内の短文をネット上で「呟い」て、それを投稿するというものです。橋下徹大阪市長の「呟き」に一〇〇万人ものフォロワーがいることがニュースになったりしましたが、登録をすれ…

「歌のある生活」インターネットの世界の歌②

皆さんは、題詠はお好きでしょうか。 ただし、好きだという人でも、一〇〇の題を順番に一年間かけて詠むというイベントの存在については、あまりに突飛すぎて、驚かれるのではないでしょうか。 そんな酔狂なイベントがインターネットの世界では毎年行われて…

「歌のある生活」インターネットの世界の歌①

皆さんは、いつどこで歌を詠まれるのでしょうか。ベテランの皆さんでしたら、いつでもどこでも、旅先や散歩中などは当然のこと、仕事中や休日も、リビングや就寝前や入浴中、もしかしたら夢の中でも作歌されているのではないでしょうか。常にさっと詠めるよ…

ふるき日本の自壊自滅しゆくすがたを眼の前にして生きるしるしあり(土岐善麿)

敗戦直後の歌である。土岐は、それまでの体制や思想を「ふるき日本」といい、それが自壊自滅してゆく様を眼の前にする。しかし、結句で「生けるしるしあり」と詠う。これは万葉歌(「御民われ生ける験あり…」)からひいてきているのであるが、ここの鑑賞が、…

大正のマッチのラベルかなしいぞ球に乗る象日の丸をもつ(岡部桂一郎)

なぜ、作者はマッチのラベルをみて「かなしいぞ」と思ったのか。 そもそも、私は歌にあるマッチ箱がどんなものか知らない。もちろん今の時代、ネットで画像検索すれば、たちどころに日の丸を持った象の絵柄がディスプレイに映る。なので、作者のうたうマッチ…

うづくまるわが片頬に光さし自負の心のたかまらむとす(三國玲子)

作者はうずくまっている。なぜ、うずくまっているのかは、わからない。わからないけれど、うずくまっているというのだから、体をまるくしてしゃがみこんでいる。そして、おそらくはしばらくの間、そのままでいたのであろう。そこに、光が差してきた。光が朝…

4月になっていた

2月に、ドンと落ちることがあって、そのまま年度がかわってしまった。 4月になって、やっと気持ちが戻ったという感じである。 それまでは、Blogを書こうなんていう気にまったくならなかった。 また、ドンと落ちるまで、そろそろと更新である。

札響シベリウスツィクルスに行く

今週末は、尾高忠明、札幌交響楽団のシベリウスプロである。 5、6、7の順に演奏するのもニクい。演奏会の盛り上がりを考えたら、スケールの大きい5番がメインプログラムにふさわしいだろうが、5、6、7番を演奏するなら、やはりコンサートの締めくくり…

尾高・札幌交響楽団 シベリウスツィクルスの記録

2014年のシベリウスプロは、「恋人」、4番、2番だった。 私は、最後尾の尾高シートで観る。隣の老人と若い女性の2人組が、4番は知らない曲だといっていたのが印象的だった。 実は、私は2005年に札響定期でこの4番と7番を聴いている。もう1曲は「ポヒョ…

尾高忠明指揮 札幌交響楽団 シベリウス 3&1番

2013年から始まった、尾高忠明指揮、札幌交響楽団のシベリウスチクルスも今回で終わりとなる。私は毎年、聴きに行っている。今週末も行くつもりである。 私の2013年のレポートがあるので、載せることにします。 札響定期シベリウスプロ感想。尾高忠明指揮。…

シベリウスの後期交響曲を聴く~その2

シベリウスの交響曲は、フィンランドのオケと指揮者じゃないとピンとこないという向きもあるが、後期交響曲というと、私はバーンスタイン、ウィーンフィル(5&7番)と、カラヤン、ベルリンフィルがなんだかんだ言って名盤だと思う。特にバーンスタイン晩…

シベリウスの後期交響曲を聴く

シベリウスの後半の3交響曲を聴いている。5番、6番、7番。 2月の札幌交響楽団定期演奏会に向けての準備である。 CDを聴きながら、スコアを読む。シベリウスのこれら交響曲のスコアを手に入れることができるというのは、つくづく時代は変わったなあと…

イマココ短歌

イマココの短歌が好きです。 例えば、永井祐『日本の中でたのしく暮らす』のこの歌に、私はイマココを感じます。 わたしは別におしゃれではなく写メールで地元を撮ったりして暮らしてる 永井祐 なんといっても「写メール」です。もう「写メール」なんて言わ…

いらぬお節介

もう十五年も昔になるけど、一年だけ中学校で国語を教えたことがある。学校の事情で国語教師が足らなくて、若造の社会科教師だった私を、適当にあてがえたということ。当時の国語教科書には、与謝野晶子の『みだれ髪』から、この歌が載っていた。 なにとなく…

栗木京子『水仙の章』(砂子屋書房)を読む

短歌は「機会詩」としての側面を持つ。 他の文芸と比べても、短歌は社会事象にコミットしやすい詩形であろうし、私たちが社会事象から受けた心象を、詩へと昇華することについても、比較的容易にこなせる詩形といえよう。 角川「短歌」は、東日本大震災から…

『春の輪』 髙橋みずほ歌集

『春の輪』 髙橋みずほ歌集 宮城で生まれ育った作者の、幼少期の郷里をうたった第五歌集。作者と同世代であればなおのこと、そこかしこに溢れる懐かしい情景に、ひととき浸ることができよう。 豆電球に傘をつけ円卓囲むおだやかな振り子の刻み 缶蹴りの缶け…

『深層との対話』 川本千栄評論集

『深層との対話』 川本千栄評論集 著者の第一評論集。二〇〇一年からの一〇年間に書いたものより一八編を選ぶ。二章構成で、一章が「短歌にとっての近代とは」のタイトルで九編。近代という大きなくくりながら、中心となっているのは戦時詠。山崎方代、前田…

『瞑鳥記』 伊藤一彦歌集

『瞑鳥記』 伊藤一彦歌集 伊藤一彦の第一歌集が、現代短歌社の第一歌集文庫シリーズよりこの度復刊された。反措定出版局によって一九七四年に出版された「瞑鳥記」一九五首ならびに福島泰樹による濃厚な解説もそのまま再掲。さらに、今回の復刊にあたっては…

『夏にふれる』 野口あや子歌集

『夏にふれる』 野口あや子歌集 作者の第二歌集。二〇歳から二四歳まで、大学生活四年間の歌約八〇〇首を収める。ほぼ時系列で作品が編まれており、作者四年間のポートレイトの趣。 銀紙をなくしてガムを噛むように思春期が香らなくなるまでを 映画サークル…