『夏にふれる』 野口あや子歌集
作者の第二歌集。二〇歳から二四歳まで、大学生活四年間の歌約八〇〇首を収める。ほぼ時系列で作品が編まれており、作者四年間のポートレイトの趣。
銀紙をなくしてガムを噛むように思春期が香らなくなるまでを
映画サークルの上映会のざわつきの中につぎつぎふくらむ蕾
歌集をよみ進めてしばらくは、大学生活を瑞々しい感性でうたう作品に多く出会う。後半に向かって、二〇代の女性性の匂い立ちはじめる歌が塗されていく。
繋いだ手をどちらともなくゆるめてはおとなのひとのはかなさ匂う
もうやめろと摑まれるためあるような手首に銀の時計をつける
身長がもう伸びぬその代償にきみという語を貰いうけたり
紹介した歌のほかに、自我を一心に見つめた歌、祖母や母親をうたった歌に等身大の作者の若々しい熱情が溢れている。
(短歌研究社 〒一一二―〇〇一三 東京都文京区音羽一―一七―一四 電話〇三―三九四四―四八二二 定価二七〇〇円+税)(桑原憂太郎)
2013年「短歌人」2月号