『深層との対話』 川本千栄評論集

『深層との対話』 川本千栄評論集
 

 著者の第一評論集。二〇〇一年からの一〇年間に書いたものより一八編を選ぶ。
二章構成で、一章が「短歌にとっての近代とは」のタイトルで九編。近代という大きなくくりながら、中心となっているのは戦時詠。山崎方代、前田透、渡辺直己ほか歌人の戦争を詠んだ歌をとりあげ論じている。それぞれの各論はコンパクトながら、戦争を詠うとはどういうことか、という著者の問題意識は一貫している。
 後半は「現代短歌の問題点」として九編。加藤治郎渡辺松男河野裕子、仙波龍英ほか現代歌人をとりあげている。
 なかでも、仙波論では、風俗詠に特徴のある作風という仙波のこれまでの短歌史的な位置づけに加え、家族の歌を通して自己の存在に対する不安や苦痛、桜の歌を通して人間存在の根源的不安、といった新しい論点を提出している。知的で都会的な歌人という仙波の評価軸を越えて論じているところに、仙波を再評価する著者の批評眼が光る。

(青磁社 〒六〇三―八〇四五 京都府京都市北区上賀茂豊田町四〇―一 電話〇七五―七〇五―二八三八 定価二五〇〇円+税)(桑原憂太郎)

 

2013「短歌人」1月号 所収