『春の輪』 髙橋みずほ歌集

『春の輪』 髙橋みずほ歌集

 宮城で生まれ育った作者の、幼少期の郷里をうたった第五歌集。作者と同世代であればなおのこと、そこかしこに溢れる懐かしい情景に、ひととき浸ることができよう。

豆電球に傘をつけ円卓囲むおだやかな振り子の刻み

缶蹴りの缶けとばしてにげるひといつまでも鬼のかおする

うたわれているのは、宮城の山村であろうが、世代の違う私などは、まさに昭和ニッポンの原風景として括れてしまえる。

春一番吹き上ぐる土手のかたき土かそけくほぐれ土筆の頭

 定型にとらわれない歌ぶりについては、好みが分かれるかもしれない。しかし、歌に込められた想いや語調とあわせて、作者独特の律感を楽しみたいと思う。

れんげの花咲く学校帰りれんげつみ摘み肩よせてつむ

小さき息かく水の面(も)にまるく水澄ましの春の輪

沖積舎 〒一〇一―〇〇五一 東京都千代田区神田神保町一―三二 電話〇三―三二九一―五八九一 定価二五〇〇円+税)(桑原憂太郎)

 

2013年「短歌人」4月号 所収