今年めでたく卒寿を迎えた松川洋子の第六歌集。人生の先達に相応しい味わい深い作品のなかに、キャリアを感じさせないお茶目な歌がはさまれていて、びっくりします。老いてなお溢れる彼女の瑞々しい感受性に、私は大いに惹かれています。
菜の花のおしくらまんぢゆう きみたちを来年も見たい絶対見たい
歌だけみれば、歌歴六〇年をゆうにこえる方の歌集にある作品とは誰も思わないでしょう。初期の頃は硬質な文語体が特徴的な松川でしたが、今では口語も自在にあやつります。
ヒトほどにうざる生き物なきゆゑにはまつてみたい動物行動学
「うざる」(うざい)、「はまつて」なんて言葉を臆面もなく使うベテラン歌人は彼女だけじゃないかしら。
脊椎を走る冷感 お月様わたしに何が起きたのでせうか
もう、月に問いかけちゃうんですね。そんな短歌界の「永遠の女学生」といえば、この人、松川洋子のことでございます。
『NHK短歌』2016年12月号所収