ウォルトンの交響曲1番について

 

 

 ここのところ、繰り返し聴いているのは、W.ウォルトン交響曲第1番。

 ウォルトンは20世紀イギリスの作曲家。作曲はほとんど独学だったというが、イギリスのみならず、20世紀を代表する作曲家の一人といってよい。

 映画音楽でも有名。20世紀の作曲家のなかでは、とにかくカッコイイ旋律が書ける。だから、ベースは調性音楽。旋律を生かすためには、和声や拍子を壊しすぎてはいけない。そういうわけで、カッコイイ旋律に華やかなオーケストレーションがついた。

イギリス王室の2度の戴冠式の行進曲をつくってもいる。なかでも、1937年のジョージ6世戴冠式の行進曲は有名。これぞブリティッシュスタイルマーチ、といった感じの華やかで荘厳な行進曲。邦人でいうと、自衛隊儀礼黛敏郎より、皇室ご用達の團伊玖磨に雰囲気が似ている。どちらもカッコイイ旋律を書けるけど、洗練されているといえば、團だろう。

 

 交響曲第1番は、1935年の作品。20世紀の交響曲といえば、ショスタコービッチシベリウスプロコフィエフあたりが、わりと演奏機会やディスクが多いけれど、ウォルトンの1番も、なかなかの力作。20世紀を代表するシンフォニーと言ってもなんら遜色はない。

 古典的な4楽章で、各楽章の形式も私たちが知っているものからの逸脱はない。しかも、葛藤をへて勝利へという馴染みのある構成をとっていて、45分前後におさまる。と、よくあるシンフォニーの形で、旋律線も非常にはっきりしているので安心して聴くことができるし、聴いたあとは非常にすっきりする。

 けれど、スコアは(多分)相当複雑。演奏も相当ハイレベルに違いない。難しいパッセージが多々あることにくわえ、トゥッティでタテセン合わせるのがたいへんそうな箇所がたくさんある。

 曲の特長は、管楽器がとにかく鳴る、ということ。これが、カッコよさの要因。金管では、トランペット、トロンボーンのほか、チューバもかなり鳴るのだけど、なかでもホルンが活躍する。高音域にも低音域にも出てくるホルンの咆哮が印象的だ。

 実は、私は最近まで、このシンフォニーを聴く気にはならなかった。とくに終楽章コーダのくどいフォルテシモは、脂っこくて胃にもたれる感じだった。

 この曲に限らず、とにかく大音量の金管の響きが、きつかった。歳をとると、金管のフォルテシモが体に合わなくなるんだな、シベリウスの弦楽あたりを欲しがるんだな、と思っていた。食傷したという感じだった。

 けれど、今年になって、この交響曲を何度も繰り返し聴けるようになって、体調というか気持ちというかが、回復してきたと感じるのである。また、いろんな楽曲を楽しめるというのは、いいことだ。ただ、ウォルトンは聴けるようになったけど、まだ、ストラヴィンスキーを聴こうという気にはならない。果たして、聴けるようになるのだろうか。

 

 

 ウォルトン交響曲1番のディスクだけど、私が持っているのは、4枚。

 その中で、ベストは、これ。ラトル、バーミンガム市響

 

交響曲第1番

交響曲第1番

 

 

Walton: Symphony No.1

 

 

 98年発売だから、もう現役盤じゃないんだろうけど、これを聴けばこの曲については、じゅうぶんである。

 ラトルの解釈も的確だけど、なによりオケが素晴らしい。生き生きとしたリズム。複雑なオーケストレーションを難なくこなす。そして、ちゃんと鳴っている。ここまで、立ち上がりがいいというか、機動性にすぐれているというか、分厚い響きをパッパッと鳴らして色彩豊かに曲想を繰り広げていく躍動感がとにかく素晴らしい。

 これで、録音が最上だったら申し分ないけど、少しだけレンジが狭いかな、という感じだ。

 

ラトルの対極にあるのが、ホーレンシュタイン指揮のロイヤルフィル。1971年のライブ録音だから、これは、入手は困難なようだ。

 とにかく、重厚。遅い、遅い、重い、重いの解釈。珍盤の向きもあるが、これはこれで、ひとつの解釈として一聴に値する。演奏はいたって真面目、オケも精度も(1971年のライブ演奏としては)高い。じっくりと聴くのにはいいが、ただし、これがウォルトンのシンフォニーの正統とはいえないだろう。

 

 3枚目は、ブライデン・トムソン指揮のロンドンフィル、は、可もなく不可もない演奏。ときおり、リズムが重くなるところが傷といえば傷だ。

 

 

ウォルトン:交響曲第1番

ウォルトン:交響曲第1番

 

 

Walton;Symphony No. 1,Varii

 

 

 最後の一枚、ポール・ダニエルの指揮するノーザン・シンフォニアナクソス盤、まだ現役で、廉価で販売している。

 

ウォルトン:交響曲第1番/パルティータ(イングリッシュ・ノーザン・フィルハーモニア/ダニエル)

ウォルトン:交響曲第1番/パルティータ(イングリッシュ・ノーザン・フィルハーモニア/ダニエル)

 

 

 これは、一言でいうと、熱い演奏だ。スタイリッシュの対極。かといって、鄙びているというわけでもない。聴いていて、胸の熱くなる、情熱的な演奏なのだ。

 一流のオケとは言い難いが、ちゃんと鳴っているし、ミスタッチもないし、聴いていてはらはらすることもない。ちゃんと安心して聴ける。なので、演奏に心配はない。

 1楽章、入りは非常にハイテンポなのだけど、だんだん重くなっていく。第2主題の提示でルバートをかけているところが、独特。再現部の前が、相当重く熱量を感じる。

 2楽章はやや重いが、なんとかスケルツォになっている。

 3楽章。もう素晴らしい。気持ちが入った、熱い熱い演奏。後半、トゥッティで奏でるオケの慟哭にグッとくる。

 終楽章。やや落ち着いた運びながら、コーダ前で、スネアとドラが入って、ファンファーレの鳴ったところから、グンと熱量を帯びた演奏になる。このシンフォニーを愛してやまない、プレイヤーの熱い感情が伝わってくるそんな演奏。こっから先、情熱は途切れず、感動のフィナーレとなる。ここは、聴くたびにグッとくる。