「歌集」の読み方②

 前回、歌集はエッセイ集のようなものだ、という話をした。
 ただ、一口にエッセイといっても、いろんな話題があろう。多くは、作者の身近にあった出来事を題材にして面白おかしく語るものだろうか。短歌も、その多くは、自分の身の周りのことを歌にする。これを生活詠、とか、日常詠、という。また、世の中の政治や社会について、まじめに、ときには、面白おかしく語るエッセイもあろう。これを短歌の世界では、社会詠とか時事詠という。ほかにも、事件や事故の顛末や、業界のちょっとしたウラ話や、旅行記や人生を回顧するエッセイもあろう。こうしたものを短歌にすれば、機会詠なり職業詠なり旅行詠なり境涯詠ということになろう。
 そして、歌集もエッセイ集も、いくつかの話題をまとめたものだから、旅行の話の最中に政治の話題を出したり、別の話題をあれこれ持ち出したりと、短い文章や連作のなかでやると、収拾がつかなくなる。大体は、ひとつのテーマで、エッセイなら数枚、短歌なら十数首ということになろう。そして、エッセイ集であれば、それらの話題をまとめて本にする。そうしたまとめる過程のなかで、旅行記とか身辺雑記とか、日録とか、時事放談的とか、そんなテーマのエッセイ集ができあがるのだろう。
 歌集についても同様である。その多くは、作者の身近な出来事を歌材にして、それをある程度のかたまりごとの連作にして、それらの連作を配列して歌集にする。もちろん、旅行詠を中心に編んだ歌集もあるし、各章ごとにテーマのある歌集もある。
 …と、いうことを前回は駆け足でおしゃべりしたのであるが、実は、歌集には、そうしたエッセイ集のようなものとは違う歌集も、数は少ないが存在する。

 例えば、小説風の体裁をとっている場合というのがある。
 主人公がいて、一首一首読み進めていくと、ストーリーが展開していくというものである。一見、面白そう、と思うかもしれないが、短歌とはどうも肌が合わない。ストーリーで読ませたいのだったら、初めから小説にすればいいのである。わざわざ韻文形式でストーリーを展開させるのかがよくわからない。であるから、私は、そうした歌集は否定的である。現実に、そうした体裁をとって成功した歌集というのも知らない。もし、この先、小説風の体裁をとっている歌集で成功したものが出現すれば、また、違った議論ができるかもしれないが、現時点で、歌集を小説風で編集するというのは悪手だ。韻文と散文の両方の良いところを消してしまっている感じがする。

 また、主体の属性を作者から遠いところに設定して歌を詠むのも、成功しているとはいいがたい。別に作者が中年男性で、主体をうら若き少女に設定して歌を詠んでも、何も悪くないが、詠う意味がないし、それを歌集に編む意味が分からない。

 ただし、ファンタジーとかSFとかホラーとか明らかにフィクションと分かっているもので、フォーマットをかっちり決めていれば、歌集としては成立する。
 テレビ番組で「世にも奇妙な物語」というのがあるが、あれは、「奇妙な話」というフォーマットを視聴者にも明示しているから、観るほうはそういうものとして楽しめる。あれが、普通の単発ドラマで放映されたら、あまりのリアリティのなさに視聴者はつまらないと思うだろう。
 あるいは、なんでもいいけど例えば、「刑事ドラマ」というジャンルのドラマで、リアリティを求めているのか、エンターテイメントを求めているのか、視聴者はおのずと識別して楽しんでいると思う。リアリティを求めているくせにあまりにウソくさい画で憤慨することはあっても、エンターテイメントでつくられているドラマにリアリティがないと憤慨する視聴者はいないだろう。
 歌集も同様で、これはファンタジーだ、とか、SFだ、とかのフォーマットを明示すれば、そういうジャンルの歌集として成立する。ただしそれは、歌集単位であること、あるいは、最低でも数十首の連作単位であることが条件だ。一連のなかに、ファンタジーと日常詠が混在すると、読者は混乱する。そういう混乱を目論む連作というのもなくはないが、うまくはいかないだろう。
 やはり、連作規模でしっかりしたフォーマットで歌を並べるといいだろう。
 で、こうした毛色のかわった歌集が今後、多く生まれることになれば、身辺雑記ばかりのエッセイ集のような短歌の世界も広がっていいかと思う。
 「歌謡曲」が「J-POP」へと名称が変わったように、「短歌」も「タンカ」とかになるかもしれない。そして、そういう歌集は、エッセイ集とは違うから、やはり、そうしたファンタジーやSFやホラーがうまくいっているかどうかの批評を含めた書評になるんだと思う。従来の批評ではとらえきれないんじゃないかしら。
 ただ、いかんせん、そうした歌集はまだ圧倒的に数が少ないから、そうした「読み」や「批評」についても今後の議論を待たなくてはならない、というのが現状であろう。