中学校の教科書に載っている短歌作品を紹介しています。
中学生向けだからといって、平易な歌ばかりではありません。近代から現代にうつるにつれて、理解が難しい作品も登場するようになります。大人が鑑賞するにも、かなり歯ごたえがあると思われる作品を読み解きながら、それにプラスして、中学生は短歌の「学習事項」も学んでいくことになります。
ところで、前回まで、いろいろと短歌について学習したのですが、覚えていますか。ちょっと、おさらいしておきましょう。
短歌は、五七五七七の定型詩で、文語と口語があるということ。「句切れ」も学習しました。それから「擬人法」「体言止め」といった修辞技法のついても学習しました。
では、ほかにどんなことを学習するのでしょうか。引き続き、光村図書の国語教科書の作品をみていくことにしましょう。
ぞろぞろと鳥けだものを引きつれて秋晴の街にあそび行きたし 前川佐美雄
さあ、この歌、どうでしょう。果たして中学生がストンと鑑賞できるのでしょうか。というか、大人の私にも難しい。これ、さらっと読んだだけなら、楽しそうな歌だねえ、で終わってしまうのでしょうが、それでは鑑賞になりません。結句「行きたし」に屈折があります。ここが鑑賞の分かれ目と思えるのですが、授業ではそこまで教えるのでしょうかね。国語の先生に聞いてみたいものです。それから、修辞技法としては、「鳥けだもの」と「街」の対比から、「換喩」を教えるのだと思いますが、果たしてそれも中学生に理解できるのでしょうか。
こうした難解な作品が教科書に載っているのをみると、教科書編集者の「今はまだわからなくてもいいよ、大人になってわかればいいよ」というささやきが私には聞こえてきます。
はとばまであんずの花が散つて来て船といふ船は白く塗られぬ 斎藤史
ああ、これは、そんなに難解ではない。ちょっとほっとします。情景をしっかりと思い浮かべることで鑑賞できます。とくに、色彩の対比。あんずの花の白と、海の青。それでも歌われている情景を読み取るのはやや高度かもしれませんね。ちなみに、この歌では、学習するべき修辞技法はないと思います。句切れもありません。
新しきとしのひかりの檻に射し象や駱駝はなにおもふらむ 宮柊二
「象」と「駱駝」が登場してさきほどの「鳥けだもの」とやや重なります。こちらは「なにおもふらむ」と歌っています。これは擬人法です。擬人法になっていることで、歌の理解はやさしくなっています。それに「象や駱駝は何を思っているのかあ」と想像することで、さまざまな解釈が生まれやすいと思います。私は、「換喩」を読み解く「鳥けだもの」よりも、「擬人法」で象や駱駝の気持ちを想像するこちらのほうが、中学生向きに思えます。
ジャージーの汗滲むボール横抱きに吾駆けぬけよ吾の男よ 佐佐木幸綱
ちょっと早熟な感じがします。中学生でラグビーは早いです。この「吾」は、高校生以上でしょう。「吾の男よ」の隠喩も中学生に理解できるかどうか。けれど、中学校の教科書に載っている。なぜだろう。ここでも、「今はまだわからなくてもいいよ」という編集者のささやきが私には聞こえてきます。
「かぎろひ」2014年11月号所収