2022-01-01から1年間の記事一覧

短歌時評2023.1

キマイラと口語は別ものである 口語短歌とは何か。文語短歌とは何か。 そんな短歌の世界の根本的な問題について、一つの回答を示した論考が出版された。川本千栄『キマイラ文語』(現代短歌社)である。 本書では、「口語」と「文語」の違いについて、明快に…

短歌時評2022.11

角川「短歌」八月号の座談会「流行る歌、残る歌」を読む。内容は、というと、大辻隆弘、俵万智、斉藤斎藤、北山あさひの四氏に、今後残るであろう作品をあげてもらい、それぞれ残る理由を述べていく、というもの。 例えば、俵万智なら、「残る歌」の条件とし…

短歌時評2022.9

連作にテーマは必要か? 今年の「短歌研究新人賞」が発表された。 受賞作は、ショージサキ「Lighthouse」30首。 美しいみずうみは水槽だった気づいた頃には匂いに慣れて 東京にいるというよりサブスクで日々を レンタルしている気分 顔も手も胸も知ってる…

短歌時評2022.7

動画的手法とは何か 短歌ムック「ねむらない樹」Vol.8は、「第四回笹井宏之賞」の発表号。二〇一九年の第一回目から数えて、今年で四回目。応募総数は五八九点。去年の「角川短歌新人賞」の六三三点には及ばないものの、「短歌研究新人賞」の五八三点より多…

ご報告

出版社より発表がありましたので、こちらでも報告します。 この度、私、桑原憂太郎は、短歌研究社の第40回「現代短歌評論賞」を受賞しました。 望外の喜びでございます。 9月21日発売の「短歌研究」10月号に掲載されます。

短歌時評2022.5

三つの短歌賞について 去年(二〇二一年)発表された短歌賞から話題を三つ。 一つ目は、「短歌研究新人賞」。受賞作は、塚田千束「窓も天命」三十首。塚田は「まひる野」「ヘペレの会」所属、旭川市在住の三十四歳の医師(受賞時)。作品の主人公は医療従事…

口語短歌の最前線⑤

前回からの続きである。前回より、〈主体〉の認識の流れ、というのをキーワードとして提出している。 そもそも短歌作品というのは、〈作者〉の「感動」を詠む、というのが常道であった。ここでの「感動」というのは、深く心が震えるような「感動」ではなく、…

口語短歌の最前線④

前回からの続きである。 前回、〈主体〉の認識が流れている、という「読み方」を提示した。 横浜はエレベーターでのぼっていくあいだも秋でたばこ吸いたい 永井祐『広い世界と2や8や7』 〈主体〉がエレベーターで秋だなあと、状況を認識して、直後にたば…

口語短歌の最前線③

前回、二つの文章の断片が並んでいる作品を提出したが、こうした断片を無理やり一つの文章にするとどうなるか。というと、次のような作品になる。 横浜はエレベーターでのぼっていくあいだも秋でたばこ吸いたい 永井祐『広い世界と2や8や7』 秋がきてその…

口語短歌の最前線②

前回「短歌的喩」で読むと、いい鑑賞ができるのではないか、というところで話が終わった。 「短歌的喩」とは何か。というと、これは吉本隆明が提唱した概念で、短歌だけにあらわれる独特の比喩の働きをいう。概略をかいつまんでいえば、短歌を上句と下句にわ…

口語短歌の最前線①

(過去に、歌誌に載せた記事の転載です) 昨年(二〇二〇年)永井祐の第二歌集が出た。読むと、これまで短歌の世界にはなかった新たな表現技法が使用されているのが分かる。こうした表現技法が、今後のスタンダードになるのか、ただの実験で終わるのかはまだ…

現代短歌の「異化」について~まとめ

ここまでの議論をまとめよう。 短歌の世界で「異化」の手法として分かりやすいのは、日常にあるコトやモノを別いいかたで表現してみる、という手法である。いうなれば比喩表現のバリエーションなんだけど、そうやって別のいいかたで表現することで、日常の見…

現代口語短歌の「異化」の手法④

前回までは、「異化」作用の手法として、「語順の入れ替え」と「強引な接続」による手法をあげた。 今回は、3つ目として、「流れる認識」による状況の「異化」とでも呼べるものをあげる。 いつも永井祐ばかり掲出しているから、今回は、仲田有里『マヨネー…

現代口語短歌の「異化」の手法③

前回は、「異化」作用の手法として「語順の入れ替え」による手法をあげた。 今回は、2つ目として、「強引な接続」とでも呼べるものをあげる。 掲出歌は、やはり永井祐『広い世界と2や8や7』から。 君の好きな堺雅人が 電子レンジ開けては閉める今日と毎…

現代口語短歌の「異化」の手法②

短歌の「異化」の手法について考えるとき、そもそも日常のコトやモノを「韻文」で叙述すること自体、日常のコトやモノを「異化」している、とおおきく括ることができよう。だからこそ、日常のどうでもいい、ほんの些細な内容のことを詠っても、それなりに詩…

現代口語短歌の「異化」の手法①

今年もよろしくお願いします。 去年から、短歌の「異化」作用について議論している。 そもそも、<短歌で日常を叙述すること自体、日常を「異化」している>、ということは言えるだろう。藤の花が畳にとどいていない、なんていうどうでもいい日常の出来事が…