2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

わからない歌⑩

前回、〈リアリティ〉というワードを出して、わからない歌をわかる歌にしようと試みた。次の作品も同様に〈リアリティ〉の追求で読み解ける。 白壁にたばこの灰で字を書こう思いつかないこすりつけよう 永井祐『日本の中でたのしく暮らす』 この作品、一年前…

わからない歌⑨

現代口語短歌には、一読、短歌とはどうにも認めがたい、ただの一行の散文のようなものが存在する。例えば、こんな歌。 あっ、ビデオになってた、って君の声の短い動画だ、海の 千種創一『砂丘律』 作者の千種創一は、「塔」短歌会所属で中東在住。第一歌集『…

わからない歌⑧

前回から検討しているのは、この作品だ。 撮ってたらそこまで来てあっという間で死ぬかと思ってほんとうに死ぬ 斉藤斎藤『人の道、死ぬと町』 この歌は、死者を「わたし」にみたてて斉藤が作品化したのである。「作中主体=作者」とするならば、いわば斉藤が…

わからない歌⑦

斉藤斎藤は、初期の作品から、「私性」というものを追求している歌人である。短歌での「私」とは何かを執拗に突き詰めようとしている。ただし、それは、斉藤が作歌するなかでテーマとして浮上したのだと思う。はじまりは、現代社会のかけがえのない私、みた…

わからない歌⑥

斉藤斎藤『渡辺のわたし』の続きである。 着信を拒否られている北口の夕日がきれいですが、何か? モノローグとしても通用するけれど、普通に読めば、「主体」が、他者に話しかけているという設定となるだろう。けれど、この関係性は、かなり曖昧だ。親しい…