2020-01-01から1年間の記事一覧

短歌の<比喩>②

<比喩>の話題の2回目。 今回は<隠喩>から。 <隠喩>とは、<直喩>の「~のような」「~みたいな」「~ごとき」が消えたもの、ととらえていいだろう。「綿のような雲」は<直喩>だが、「雲は綿」となると<隠喩>になる。 この<隠喩>の一般的な修辞…

短歌の<比喩>①

今回からは<比喩>をテーマにお喋りをする。 けれど、実のところ短歌の世界で<比喩>の話はもう出し尽くした感があるので、ここで何か新奇なことを言えるかどうかは、ちょっと自信がない。 それに、おそらくお喋りしていくうちに、だんだんと話がいろんな…

短歌で虚構をやる理由

前回まで、第66回角川短歌賞受賞作品の道券はな「嵌めてください」50首のなかから数首を分析したが、今年の角川短歌賞には、もう一つ受賞作品がある。 それは、田中翠香「光射す海」50首である。この連作は、カメラマンが主人公の、シリア内戦の状況を…

<抒情>のしくみ⑦

今回も、道券はな「嵌めてください」50首(第66回角川短歌賞受賞作品)のなかから、いくつか取り上げて、現代口語短歌の<抒情>の最前線を、みていくことにしよう。 改札にPiTaPaをあてるこちらからくちづけをするような硬さで 暑苦しい乳房(ちぶさ)…

<抒情>のしくみ⑥

前回、<オノマトペ>についてお喋りをしてしまったために、何か寄り道をした感じになってしまったが、もともとは<抒情>がテーマであった。 <抒情>の仕組みについて考えていたのだった。<抒情>の仕組み、そのメカニズムを考えようとしていた。 前回ま…

<抒情>のしくみ⑤

これまで議論してきた<コノテーション>の修辞法に関わって、短歌特有の<オノマトペ>の用法について、少しお喋りをしていきたい。 <オノマトペ>というのは、「雨がざあざあ降る」、とか、「太陽がギラギラ輝く」といった、いわゆる擬音語・擬態語の総称…

<抒情>のしくみ④

今回も、<コノテーション>という抒情を生み出す技法について実際の作品から検討してみよう。 今回は、北原白秋を。 なんで、ここで白秋を取り上げるのか。と、いうと、とある必要があってついこの前、白秋全集を読み直したので、そのついでにという、筆者…

<抒情>のしくみ③

前回は、コノテーションの分かり易い例として、「夕焼け」「ゆうぐれ」といった「言葉」を取り上げた。 今回は、いくつかの歌を鑑賞しながら、コノテーションの作用を実際に確認していこう。 前回取り上げた、笹公人の『抒情の奇妙な冒険』から。 しのびよる…

<抒情>のしくみ②

前回、「コノテーション」をいうキーワードを提出した。 ここで議論しているのは、あくまでも「言葉」のイメージある。つまり、「夕陽」という「言葉」から、私たちは勝手に「ノスタルジー」といったようなイメージが喚起される、ということを議論している。…

<抒情>のしくみ①

去年の年末から、毎週更新してきた本Blogであるが、短歌文芸のわりと大きなテーマについてあれこれおしゃべりしてきたつもりである。大きなテーマというのは、<韻律>、<リアリティ>、<私性>といったテーマである。 こうしたテーマについて、私は、一首…

短歌の<私性>と<リアル>⑤

短歌の<私性>と<リアル>について、思い出したことがある。 小池光『思川の岸辺』(2015年)にある「砂糖パン」という一連である。 4首掲出する。 一枚の食パンに白い砂糖のせ食べたことあり志野二歳夏五歳のころ 自転車の前後に乗せて遠出して砂糖…

短歌の<私性>と<リアル>④

前回、「作者」と「主体」の距離を近づけることによって、作品に<リアリティ>が生まれるのではないか、という論点を提出した。 それは「主体」の行為というのは、「作者」の実体験、実録、ナマの記録、ホントの話、ノンフィクションに違いない、という読者…

短歌の<私性>と<リアル>③

前回取り上げた作品は、これだ。 非常勤講師のままで結婚もせずに さうだね、ただのくづだね 田口綾子『かざぐるま』 この作品は、現在口語短歌のモノローグで詠われている短歌の到達点であることは、前回、少し述べた。すなわち、口語で散文的な心のなかの…

短歌の<私性>と<リアル>②

前回とりあげた作品はこれだ。 たくさんのおんなのひとがいるなかで/わたしをみつけてくれてありがとう 今橋愛『О脚の膝』 きのうの夜の君があまりにかっこよすぎて私は嫁に行きたくてたまらん 脇川飛鳥 これら作品について、次のような論点を提出した。 す…

短歌の<私性>と<リアル>①

さて、「私性」についてのお喋りであるが、今回からは、また違った視点から議論していきたい。 今回からは、読者側ではなく、もっぱら作品を作る側、つまり作者側からの視点で「私性」を議論してみよう。 なぜ、口語で歌を作る歌人は、文語ではなく、口語で…

短歌の<私性>とは何か④

前回からの続きである。 「主体」「話者」「作者」の3者の批評用語で、短歌の読み直しをしていたのだった。 この3者を出すことで、これまでの現代短歌が、また違った様相を示すようになる。 終バスにふたりは眠る紫の<降りますランプ>に取り囲まれて 穂…

短歌の<私性>とは何か③

前回までに、3つの批評用語がでてきた。「主体」「話者」「作者」の3つだ。これは、今日の短歌批評では別人である。 「主体」は作品の中の<わたし>。小説でいえば「主人公」。 「話者」は作品の中の語り手。小説でいえば「地の文」を語っている人。 「作…

短歌の<私性>とは何か②

前回からの続きである。 この作品の分析を通して、短歌形式の<私性>ということについて議論をしているのだった。 日本の中でたのしく暮らす 道ばたでぐちゃぐちゃの雪に手をさしいれる 永井祐『日本の中でたのしく暮らす』 この歌は、リアルタイムで中継を…

短歌の<私性>とは何か①

前回までは、<リアルの構造>について、議論を進めてきた。 今回からは、テーマを変えて、短歌の<私性>について議論したい。 こちらもまた、短歌にとっては重要な論点なのだが、なぜ、重要なのかというと、やはり「近代短歌」の本質にかかわるからだ。で…

短歌の「リアル」⑨

<リアルの構造>について、かなりダラダラと議論したので、今回で、一旦まとめておきたい。 短歌を読んで、ああ、これは本当のことを詠っているに違いない、と読み手が実感するためには、その短歌に何らかの<リアリティ>を担保するための仕掛けが必要。で…

短歌の「リアル」⑧~口語短歌編その3

現代口語短歌の<リアルの構造>を探ってみよう。 前回あげた永井の歌から、もう一度検討しよう。 白壁にたばこの灰で字を書こう思いつかないこすりつけよう 永井祐『日本の中でたのしく暮らす』 この歌に<リアリティ>があるとするならば、<リアリティ>…

短歌の「リアル」⑦~口語短歌編その2

前回までは、口語短歌というのは、時間軸を移動させながら現在形で詠うのが基本的な方法である、ということを議論した。 では、どういう作品がそういえるのか、確認してみたい。 白壁にたばこの灰で字を書こう思いつかないこすりつけよう 永井祐『日本の中で…

短歌の「リアル」⑥~口語短歌編その1

前回は大辻の論考を引用しながら、<リアルの構造>について議論した。 <リアル>というのは、要は<本当>のことだ。つまり、読み手側からすれば、一首を読んで、ああ、これは本当のことを詠っているに違いない、と思えば、それは<リアルな歌>、というこ…

短歌の「リアル」⑤~文語短歌編

前回までは、穂村弘の論考を参照しながら、<リアルの構造>について考えてみた。 今回からは、また違った視点から<リアルの構造>について考えよう。 なにも短歌は、「具体的」で「小さな違和感」を詠えばリアリティが担保される、というわけではない。短…

短歌の「リアル」④

前回の終わりに引用した、穂村の一文の解読からはじめよう。 この文章だ。 これらを写実的リアリズムの影響下に、その一部をツール的に技法化した表現とみることもできそうだ。(穂村弘『短歌の友人』河出書房新社) ひとつひとつみていこう。 まずは、「写…

短歌の「リアル」③

前回までと同様、穂村の論考をもとに進めていこう。 穂村弘は、吉川宏志の作品から、リアルの「構造」を抽出している。 それは、こういう歌からだ。 門灯は白くながれて焼香を終えたる指の粉をぬぐえり 吉川宏志 秋陽さす道に棺をはこびだし喪服に付いた木屑…

短歌の「リアル」②

前回の続きである。 リアルの構造を解く手がかりとして、「ただ一度きり」というワードを提出したのだった。 これを頭の隅に入れながら、さらに、穂村の別の論考を見てみよう。(穂村弘「『ダ』と『ガ』の間」『短歌の友人』河出書房新社) この論考では、こ…

短歌の「リアル」①

前回までは、連作やら歌集やらの話題を取り上げたが、やはり短歌は、一首をこってりと弄繰り回すほうが面白い。 そいうわけで、今回からは、短歌の「リアリティ」について、しばらくお喋りしていきたい。 なぜ短歌には「リアリティ」が必要なのか。 この問い…

「歌集」の読み方②

前回、歌集はエッセイ集のようなものだ、という話をした。 ただ、一口にエッセイといっても、いろんな話題があろう。多くは、作者の身近にあった出来事を題材にして面白おかしく語るものだろうか。短歌も、その多くは、自分の身の周りのことを歌にする。これ…

「歌集」の読み方①

少し前、人気漫画『鬼滅の刃』の作者が女性であったことがちょっとした話題になった。一応、名前(これも、今にして思えば、中性的なペンネームだ)、や作者の自画像(眼鏡をかけたオス?のワニ)から、そこそこ若い男性漫画家を誰もがイメージしていたわけ…