小池光「短歌を考える」を考える⑥

 前回からの続き。

 

E4句増音

 

 増音の最後は、4句である。これが、もっとも許容される「破調」であるという。
 それは、「下句の七七が、たたみかけ、加速度感を持つ傾向にあるため、一層自然に四句の増音が可能になっている」からだという。
 つまり、もともと下句は加速度感があり、増音になれば、それだけ速く読むから、効果的であるということだ。
 さらに、四句を増音にすることで、「必然的に、同じリズム、同じ速度で読むべき結句を、相対的に長びかせる」ことができ、「結句がより重く、もつたいぶつてきこえる」という。
 では、小池のあげた例歌より、検討しよう。

 

ダアリヤは黒し笑ひて去りゆける狂人は終にかへり見ずけり
監獄に通ひ来しより幾日経し蜩啼きたり二つ啼きたり
あま霧し雪ふる見れば飯をくふ囚人のこころわれに湧きたり
秋づけばはらみてあゆむけだものも酸のみづなれば舌触りかねつ
氷室より氷をいだし居る人はわが走る時ものを云はざりしかも
ふゆ日とほく金にひかれば群童は眼つむりて斜面をころがりにけり
死に際を思いてありし一日のたとえば天体のごとき量感もてり

 

順に「キョージンワ/ツイニ・」
「カナカナ/ナキタリ」
「ジュージンノ/ココロ・」
「サンノミズ/ナレバ」または、「サンノ・/ミズナレバ」
「ワガハシルトキ/モノヲ」
「メツブリテ/シャメンヲ」
「タトエバ/テンタイノゴトキ」

「キョージンワ/ツイニ・」は、53型でもたつきの8音。「カナカナ/ナキタリ」は44型の問題のない8音。「ジュージンノ/ココロ」は53型のもたつき。「サンノミズ/ナレバ」は35型あるいは53型でもたつき型。
「ワガハシルトキ/モノヲ」は、10音で完全な字余り。
「メツブリテ/シャメンヲ」は、「メン」を1音で無理やり発音すれば、8音だが、調べはかなり苦しい。
「タトエバ/テンタイノゴトキ」12音。「テン」「タイ」が1音でいけるとしても、完全な破調。「調べ」以前のはなし。
 ということで、4句8音なら、44型はもちろん、35型や53型でもいける。26型については例歌がないので、検討はできないが、たぶん、6音を33型に分けて、233型とかに分解して読み下せるのではないかと思う。
 あとの9音以上になると、苦しいだろうというのが、私の見解である。

 

 ここで、結論をみよう。

 まず、小池のまとめを引用しよう

 

A初句増音:七七五七七が自然な破調、六七五七七は要注意
B三句増音:高度のテクニック。五七六七七のみ可能と思ってまずわちがいはない。それ以上はウルトラC
C結句増音:流れどめ、抒情の阻止機能。五七五七八にとどめるのが無難
D二句増音:かなり自由。十音位までは可能
E四句増音:一番自由。十音はらくらく可能。結果へのなだれ込み方により加速度を与える。

 

 これを踏まえて、私の見解を述べる。

Aの初句増音については、小池とは見解が異なることはすでにのべた。
Bの3句増音は、高度でもなく、33型の「トマトトマト」型なら、3句増音はOK。24型42型は例歌がないところをもって、不可であろう。
Cの結句増音は、小池と同意見。
Dの2句増音は、8音まで。
Eの2句増音も、8音までである。

 

 そういうわけで、結論としては、3句6音以外は、残りは、8音までならいけるのではないか、というのが、私の見解だ。