<調べ>についてのまとめ④

 さて、ここまでは、強弱2拍子説で8音までの増音では<調べ>が崩れないことを検証した。

 この話題の最後に、どうにも<調べ>が良くない作品をみて、その良くない原因を探ってみたいと思う。

 ただ、近代短歌はもちろんのこと現代口語短歌だって、<調べ>が良くない作品というのは、それだけで作品のアベレージが低いわけだから、そうそうあるわけではない。けど、それでも、<調べ>のよくない作品を提出しているのは、あえて<調べ>の悪いことを何らかのアベレージとしている、ということはいえるだろう。であるから、そんな<調べ>の良くない作品というのは、本来的には<文体>や<内容>も含めて論じるべきなんだけど、今回は、とにかく<調べ>の検証であるから、そうした総体的な評価は留保するということを、あらかじめ断っておきたい。

 

 筆者が、意図的に<調べ>を崩した作品の典型として思い浮かぶのは、これだ。

 

革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ

                         塚本邦雄『水葬物語』

 

 この作品の韻律についての議論は、これまでたくさん論点が出ているから、ここで何か新たな論点を提出するつもりはない。

 しかし、こうした意図的に<調べ>を崩した作品であっても、強弱2拍子で読み下せるということをここでは確認しておこう。

 すなわち、

 

「かくめーか・・・/さくしかにもたり/かかられて・・・/すこしづつえきか/していくぴあの・/」

 

 と、2拍子で読み下すことができるのだ。

 これはなぜかというと、初句は5音定型、2句は8音の5音3音分割、3句は5音定型、4句は8音の5音3音分割、5句は7音の4音3音分割、と、音節を2拍節で打つことができるからだ。

 ところが、次の作品は、そうはならない。

 

 もし子供がいたら我慢して雪遊びに付き合う自分になってるだろう

                      永井祐『広い世界と2や8や7』

 オレンジ色に染まってる中央通り 市ヶ谷方面 酒屋を右に

 閉店したペットショップを見つめてる青年サラリーマン まだ見てる

 

 1首目は、こんな感じだ。

「もしこどもが・・/いたらがまんして/ゆきあそびに・/つきあうじぶんに/なってるだろう・/」

 

 初句は6音で、5音定型プラス1音で拍は打てる。強拍が「も」で弱拍は「こどもが」の「も」または「が」だ。ここは、リズムが崩れないのは、前回までに議論した通りだ。

 しかし、2句は、2拍子では拍は打てない。3音5音は無理だ。

 さらに、3句の6音字余りで完全にリズムが崩れてしまっている。

 ただし、下句は2拍子ではまるので、一応短歌の体はなしている、という感じだ。

 2首目はどうか。

 

「おれんじいろに・/そまってる・ちゅう/おうどーり・・・/いちがやほーめん/さかやをみぎに・/」

 

 こちらも、初句7音だが、ここは拍節は打てる。「お」を強拍で、「い」を弱拍で打てば、等時拍の2拍子でリズムよくいける。しかし、2句3句の句跨りがリズムを崩している。さらに、2句の句割れが重なって、ここは2拍子が打てない。ただし、下句は2拍子で難なく読み下せるので、これで短歌の体をなしていよう。

 3首目。

 

「へーてんした・・/ぺっと・しょっぷを/みつめてる・・・/せーねんさらりー/まん・まだみてる/」

 

 こちらも初句増音で6音だが、ここは拍節が打てる。強拍が「へ」で弱拍が「し」または「た」だ。2句3句も2拍子で打てるが、下句は難しい。「青年サラリーマン」が拍にはまらないし、結句の1字アケが意図的にリズムを崩している。

 他の歌集からも提出したい。

 

 今年最後のゆうだちと知らずに君が水槽ごしに眺めてた雨

                     千種創一『砂丘律』

 君はしゃがんで胸にひとつの生きて死ぬ桜の存在をほのめかす

                     堂園昌彦『やはて秋茄子へと到る』

 雲が高いとか低いよとか言ひあつて傘の端から梅雨を見てゐる

                     荻原裕幸『リリカル・アンドロイド』

 

1首目

「ことしさいごの・/ゆーだちとしらずに/きみが・・・・・/すいそーごしに・/ながめてたあめ・/」

 

 初句7音だが、ここは2拍子でとれる。しかし、2句3句の句跨りで拍がとれなくなる。「ゆーだちとしらずにきみが」は、12音だから単純に2句7音、3句5音で分ければいいかというと、そんなことにはならない。リズムが取れない以上、そんな分け方はできない。もし、ここを強引に2拍子で打つなら、表記のようになる。ただし、下句は、強弱2拍子で難なく読み下せるので、ここで短歌の体をなしている、といえよう。

 2首目。

 

「きみはしゃがんで・/むねにひとつの・/いきてしぬ・・・/さくらのそんざいを/ほのめかす・・・/」

 

 初句7音だが、ここは2拍子で打てる。しかし、下句は打てない。「さくらのそんざいをほのめかす」は14音だから単純に4句7音、結句7音に分ければいいかというと、そんなことにはならない。リズムが取れない以上、そんな分け方はできない。もし、強引に2拍子で読み下すとなると、表記のようになる。4句は「さ」を強拍で打ち、「そ」を弱拍で打つ。「そんざいを」は5連符でつめて読むということになる。そして、結句は5音としてリズムをつくることになり、<調べ>としては悪いといえよう。

3首目。

 

「くもがたかいとか/ひくいよ・・・とか/いいあって・・・/かさのはしから・/つゆをみている・/」

 

 この作品は、初句2句のリズムがとれない。「くもがたかいとかひくいよとか」の14音を強弱2拍子で打つのは困難だ。強引に2拍子で打つなら表記のようになるが、完全にリズムは崩れている。ただし、3句以降は、強弱2拍子で難なく読み下せるので、ここで短歌の体をなしている、といえよう。

 

 以上が、<調べ>を崩している作品の分析だ。

 字余りならすべて<調べ>が悪いわけでもないことが確認できたと思う。

 

 最後に、次のようにまとめておこう。

 

 強弱2拍子説というのは、

 等時拍で各句を2拍子で打つと<リズム>よく読める。すなわち、<韻律>の<律>が良いということだ。

 そして、2拍子で拍節が打てればいいのであるから、各句8音までなら<律>は崩れないということになる。

 この点をさらに細かくまとめるならば、以下だ。

 

・初句8音なら、4音4音分割なら<調べ>は崩れない。それ以外は崩れる。

・初句7音なら、3音4音、4音3音なら<調べ>は崩れない。それ以外は崩れる。

・初句6音なら、4音2音なら<調べ>は崩れない。また、3音3音なら、1拍を3連符でとれるので<調べ>は崩れない。それ以外は崩れる。

 

・2句4句5句は、4音4音分割なら<調べ>は崩れない。それ以外は崩れる。

 

・3句は、6音で3音3音なら1拍を3連符でとれるので<調べ>は崩れない。それ以外は崩れる。

 

 以上が、本Blogでの<調べ>の議論での結論だ。