短歌の「調べ」について⑧

 そろそろ、違う話題に入りたい感じがするが、前回の続きである。
 「4拍子説」より「強弱2拍子説」のほうが短歌のリズムを説明するときに優れているのは、例えば次のような作品に顕著だ。

 

うらうらに照れる春日に雲雀上がり心悲しもひとりし思へば

大伴家持

 

清水へ祇園をよぎる桜月夜こよひ逢ふ人みなうつくしき 

与謝野晶子『みだれ髪』

 

 2首とも、3句目に注目しよう。どちらも6音節「ヒバリアガリ」「サクラヅキヨ」となっている。
 より細かくみるならば、「ヒバリ/アガリ」「サクラ/ヅキヨ」と3音3音に分かれている。
 こうした3音3音になっているいわゆる字余りの3句のリズムは4拍子説だと拍節がとれない。なので、これは例外として扱われる。
 では、私たちは、この3音3音になっている3句目をどうやって読み下しているだろう。
 というか、そもそも3音3音になっているのだから、そうやって3音3音で区切って読んでいるに違いないのだ。つまり、「ヒバリアガリ」なら、「ヒバリ アガリ」と区切っている。
 そのように区切ると、一首全体のなかでこの3句がどんなリズムになるかというと、3連符が2つ並んだ感じになる。ここが3句3音3音字余りのリズムの面白さなのだ。
 その面白さを説明するには、「短歌のリズムは強弱2拍子の等時拍である」という定義に基づく「短歌強弱2拍子説」がとても都合がいい。
 すなわち、この作品は、こんな感じで読み下される。

 

ウラウラニ・・・/テレル・ハルヒニ/ヒバリアガリ・・・/ココロ・カナシモ/ヒトリシオモエバ

 2句目と4句目のアタマはオフビートで入ってもいいというのは、前回議論した通りだ。今回は、オンビートで入れて、3音節が終わったところで休符をいれてみた。また結句は、8音節なので、休符なしとなっている。
 では、注目の3句目をみてみよう。ここのところは、「ヒバリアガリ」の「ヒバリアガ」を5連符として1拍で読んで「リ」を2拍目アタマと読むのが正確な2拍子の等時拍になろう。けれど、読めばわかるが、「ヒバリアガ」の5連符で読もうと、ひといきに「ヒバリアガリ」と6連符で読み下そうと、さほどリズムの違いはない。3音3音のつながりだから、普通に読めば3連符が2つ並んだように読めるのだ。
 私は昔から、この3句3音3音の6音節の3連符読みの面白さをどうやったら説明できるかと、ずっと思案していたのだけど、今回、「強弱2拍子説」ですんなり説明ができて、とてもすっきりしているところである。

 ほかにも、4拍子説では例外扱いだけど、2拍子説で読めばしっくりくるという作品があるかもしれないが、それは別の機会にしよう。
 いずれにせよ、強弱2拍子説のほうが、4拍子よりも例外が少なそうだ、というのが現時点で私が強弱2拍子説を推す理由である。

 4拍子より2拍子のほうが優れている点というのは、まだ他にもある。
 それは、テンポをゆったりと刻める、という点だ。

 短歌4拍子説をより音楽的に「4分の4拍子の5小節」と規定とすると、そのテンポはものすごく速くなる。
 たとえば、いつもの茂吉の例歌。これ、現代人はどれくらいの速さで読むだろう。

 

最上川逆白波のたつまでにふぶくゆふべとなりにけるかも

 さあ、どうだろう、黙読と音読じゃあ読む速さも違うだろうとは思うけど、大体5秒から8秒の間くらいじゃなかろうか。
 では、その速さを4分の4拍子の5小節ととるなら、だいたい1小節は1秒から1.6秒。これをメトロノームの速度表示で表すと、♩=144から208まで、速度標語でいうとアレグロからプレストということになる。こうなると音楽のテンポとしては駆け足から全力疾走ということになり、短歌がそんなハイテンポな詩歌というのは、到底受け入れられる話ではなくなる。
 そう考えてみると、やはり各句2拍子でテンポを打ったほうが、短歌のテンポ感にも合うというものである。2拍子で読むならば、メトロノームの得度表示でいうと、♩=72から104あたりで、アンダンテからアレグレットということになり、普通に歩く速さから少しゆっくり目の行進曲、と言う感じで、さながら歩きながら一首朗誦するといった雰囲気だ。
 この点も、短歌は各句を2拍子の等時拍で読むのにふさわしいだろうなあ、と私が考える理由である。

 

 さて、そろそろまとめに入ろう。

 短歌の「調べ」についての議論であった。
 良い「調べ」というのは、どういうものをいうのか、ということを「リズム」の点から検討したのであった。
 結果、各句を等時拍の強弱2拍子で読むと規定する、「強弱2拍子」説でうまく読み下せるものは、リズムの上からも心地よく、結果「調べ」の良い歌である、といえるのではないか、というところまで話は進んだのであった。

 そうなると、この先は、さまざまな「調べ」の良い歌とされている作品を検討し、果たして「強弱2拍子」説でうまく説明ができるか、という検証作業に入るべきなのであるが、同じテーマを続けすぎましたので、いったんここまでにしたいと思います。

 次回から違う角度で短歌の「リズム」について、検討します。
 話題は変わるものの、ここまでの議論を踏まえたものになります。